どうも、だいちーです。
朝井リョウさんが書いた小説『何者』の感想を書きます。
朝井リョウさんは小説『桐島、部活やめるってよ』で華々しいデビューを飾った平成元年生まれの若き小説家です。
僕は映画の『桐島、部活やめるってよ』がたまらなく好きで、映画にハマった後に原作の小説を読みました。
映画と小説それぞれ違いがあり、どちらとも楽しめました。
『何者』とはどんな小説?

あらすじ
就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたからー。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。直木賞受賞作。
『何者』カバーより引用
「あんた、本当は私のこと笑ってるんでしょ」就活の情報交換をきっかけに集まった、拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良。学生団体のリーダー、海外ボランティア、手作りの名刺……自分を生き抜くために必要なことは、何なのか。この世界を組み変える力は、どこから生まれ来るのか。影を宿しながら光に向いて進む、就活大学生の自意識をリアルにあぶりだす、書下ろし長編小説。
amazon 内容紹介より引用
ざっくり言えば大学生5人が就活を通して悩んだり苦しんだりする模様を描いた作品です。
作中のツイッターやLINEといったSNSツールを使って、登場人物たちのキャラクターがとても巧みに表現されています。
「〇〇さんとこれから打ち上げ」
「就活とは〇〇のようなもの」
ツイッターを使った存在証明。アピール合戦。承認欲求を満たすための傍観者的な立ち位置からの分析・批評。
リアルなツイッター上でも溢れている、いわゆる「意識高い系プロフィール」や「痛いツイート」が滅茶苦茶リアル!
登場人物
拓人:本作の主人公。冷静な観察者。瑞月に思いを寄せている。
光太郎:拓人の同居人。典型的なリア充。嫌味がなくて良いヤツ。
瑞月:光太郎と付き合っていたが振られる。他人の良い面を素直に褒められる純粋さの持ち主。精神的に弱い母親を持つ。
理香:瑞月の留学仲間。「海外ボランティア」「インターン」「学際実行委員」などの肩書、SNSや自身の名刺を駆使して就活に臨む。意識高い系就活生。
隆良:理香の彼氏。意識高い系大学生。就活に興味ない素振りを見せるが、情報収集をしっかり行う。
サワ先輩:拓人のバイトの先輩。SNSを一切やっていない古風な人。精神的に物凄く大人。
ギンジ:かつて拓人と共に劇団を運営していたが、大学を辞めて自身で新しく劇団を立ち上げる。拓人とは仲違いしている。
僕たちはみんなカッコ悪い
物語後半まで僕は拓人の視点を通して光太郎に嫉妬し、瑞月に共感し、理香や隆良を笑い、バカにしていました。
拓人のセリフに共感し、意識高い系就活生を冷静な分析によって批判している拓人に対して
「いいぞ、もっと言ってやれ」なんて思っていました。
しかし、物語の後半、僕は手痛いしっぺ返しを食らうことになりました。
※ 以下ネタバレ含みます。
これまで、「意識高い系就活生」だとバカにして笑っていた理香は自分自身のカッコ悪さを自覚しながらも、就職活動に全力で取り組んでいました。
「自分は自分にしかなれない。痛くてカッコ悪い今の自分を、理想の自分に近づけることしかできない。みんなそれをわかってるから、痛くてカッコ悪くたってがんばるんだよ。カッコ悪い姿のままあがくんだよ。だから私だって、カッコ悪い自分のままインターンしたり、海外ボランティアしたり、名刺作ったりするんだよ。」
クライマックスで理香が拓人に放った言葉です。
理香の言動を心の中で笑い、裏アカウントで毒づいているだけの拓人や、
「いるいる、こういう意識高い系の痛いヤツw」と本書をニヤニヤ読んでいた僕よりも理香の方がカッコ悪い自分と向き合い、闘っていたのです。
この小説の構成が優れているのは、序盤から拓人視点で周囲の意識高い系就活生を「イタいヤツ」として「こういうヤツいるよなぁ」と共感しながら拓人という観察者に読者が乗っかって物語は進んでいきます。
しかし、ラストで、読者が乗っていた拓人自身もツイッターの裏アカウントでカッコ悪くあがいている友人を笑うことでしか精神を保っていられない悲しい観察者であったことが判明する。
頭をハンマーで殴られたかのような衝撃を受け、僕は茫然としました。
拓人=僕だと分かったのです。
理香の鋭い指摘は僕自身が普段意識せずに取っているスタンスであり、周囲の人にそのダサさを見抜かれているのではないかと嫌な汗をかきました。
もう、認めます。
「僕はカッコ悪い」
自身のカッコ悪さを受け入れて、僕たちはもがき、周囲からどう見られようと自分に出来ることをしていくしかないんだなと。
印象に残っているセリフ
拓人
「頭の中にあるうちは、いつだって、何だって、傑作なんだよな」
このセリフは主人公である拓人がギンジと隆良に放った言葉。
拓人はこの2人を似ていると思っていて、結果が出る前の努力を必死にアピールしている2人に対して嫌悪感を抱いてのセリフです。
しかし、実はこのセリフはギンジと隆良以外のもう一人に向けられているのでは?と僕は思いました。
それは、このセリフを放った拓人自身に対してです。
終盤で拓人自身がツイッターの裏アカウントで周囲の人間に対して傍観者目線で批判していることが判明しますが、
拓人は自分で何かを表現することから逃げていて、裏アカウントで憂さ晴らしをしているだけの自分に対して無意識に嫌悪感を抱いていたのだと思います。
サワ先輩
「ほんの少しの言葉の向こうにいる人間そのものを、想像してあげろよ、もっと」
ツイッターの140字じゃ見えないものばかり。
僕たちは、本当はそこに書かかれた言葉じゃなくて、書かれなかった言葉を想像して読み取るべきなのかも知れません。
瑞月
「十点でも二十点でもいいから、自分の中から出しなよ。自分の中から出さないと、点数さえつかないんだから。これから目指すことをきれいな言葉でアピールするんじゃなくて、これまでやってきたことをみんなに見てもらいなよ。自分とは違う場所を見てる誰かの目線の先に、自分の中のものを置かなきゃ。何度も言うよ。そうでもしないともう、見てもらえないんだよ、私たちは。百点になるまで何かを煮詰めてそれを表現したって、あなたのことをあなたと同じように見ている人はもういないんだって」
はい、その通りです。
自分の中の何かを表現することってとっても怖いです。
人からの評価に怯えてしまって、つい完璧なものを人に見せたいと思っていつまでも自分の中に大事にしまって、温めすぎて、そのままになってしまうんですよね。
理香
「いい加減気づこうよ。私たちは、何者かになんてなれない」
マジでこのセリフが一番グサッと刺さりました。
30歳になっても「何者」かになろうとするのはただの現実逃避なんだと、
本当にやらなくちゃいけないことはカッコ悪いなりに自分のなりたい理想の自分に近づく努力をすることなんだと、理香に教わった気がします。
まとめ
最後の拓人が集団面接を受けているシーンは、なんとなくこれ以上ないハッピーエンドに思えました。
恐らく、あの面接は失敗して企業からの採用は貰えないでしょう。
でも、これまで安全な場所からの「観察者」でしかなかった拓人が、自らのカッコ悪さを受け入れたことで「実行者」となった希望あるラストシーンだと思いました。
この先の人生に微かな自信を持ち、「多分大丈夫だ」と拓人が心の中でつぶやくラストにとても晴れやかな読後感を得られた小説でした。
本作は映画化もされており、小説を読んで面白かったので映画も鑑賞しました。
映画版の感想や小説との違いも今後記事にしたいと思っています。
ストーリーは小説版を忠実に再現していながらも、映像作品ならではの斬新な演出もあり、映画版の『何者』も必見です!
ぜひ映画版の方も視聴してみて下さい。
小説版とはまた一味違った『何者』を味わえるはずです。
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