小説アイネクライネナハトムジーク:伊坂幸太郎が描く出会いの物語 あらすじ・解説

小説『アイネクライネナハトムジーク』伊坂幸太郎著

どうも、だいちーです。

今回は伊坂幸太郎さんの作品にしては珍しい、「ごく普通の人々」の恋愛や出会いを描いた小説

『アイネクライネナハトムジーク』のあらすじ・解説・感想を記事にしました。

  • 劇的な出会いがない
  • 毎日が退屈で刺激が欲しい
  • 心が温まる小説が読みたい

といった方にオススメしたい心温まる小説です。

小説『アイネクライネナハトムジーク』とは

この小説のテーマはズバリ!

「心温まる出会いの物語」です。

 

これぞ伊坂作品!と唸るような伏線とサプライズと魅力的な登場人物の日常と出会いをテーマに描かれた心温まるストーリーがとても心地良い作品です。

読むと、現実の世界もこうやって見えないけれど人と人とが繋がって無数の物語が存在するんだろうなーと思わせてくれる良作です。

 

それでは、これから小説『アイネクライネナハトムジーク』で描かれている6つの短編からそれぞれ「登場人物とあらすじ・感想」をご紹介します。

 

アイネクライネ【劇的な出会いより大事なこと】

登場人物

主な登場人物

佐藤:「出会いがなく」恋人がいないアンケート会社勤務の27歳男性。本編の主人公。

シャンプーの女性:佐藤の街頭アンケートに協力してくれる女性。工事現場の誘導員のアルバイトをしている。

織田一真:佐藤の大学時代からの友人。美人で学校のマドンナ的な同級生と学生の頃に結婚。チャランポランでいい加減な印象を与えるが、どこか憎めないところがある男性。

織田由美:美人で気立てが良く学生時代から男子の注目の的だった。織田一真との間に子供が出来たため学生のうちに結婚。この時点では一児の母親。

織田美緒:一真と由美の娘。後の短編にも登場する。

藤間:佐藤の職場の先輩。普段は冷静沈着で堅実な仕事ぶりなのだが、奥さんが娘を連れて家を出て行ってしまったため、半ば自暴自棄になり机を蹴飛ばし会社の大事なデータを破損してしまう。(そのため佐藤が街頭アンケートを行ってデータの穴埋めをするはめになる)

 

あらすじ

この話は「アイネクライネナハトムジーク」の始まりの短編で、佐藤とある一人の女性との出会いにスポットを当てた物語です。

 

佐藤の学生時代の友人でいい加減な印象を与えるが、どこか憎めない織田一真とのやり取りの中で織田一真は「劇的な出会い」にばかり目が行っているともっと大事なことがうやむやになると言います。

 

以下、織田一真のセリフ

「ようするに、外見が良くて、性格もおまえの好みで、年齢もそこそこ、しかもなぜか彼氏がいない女が、自分の前に現れてこねぇかな、ってそういうことだろ?」

 

「そんな都合のいいことがあるわけない」と言い切り、出会い方よりももっと大事なこととして以下のように語ります。

「いいか、後になって、『あの時、あそこにいたのが彼女で本当に良かった』って幸運に感謝できるようなのが、一番幸せなんだよ」

 

このセリフに対して、日頃の行いからか、妻である由美や佐藤からはあまり共感を得られていませんでしたが、チャランポランでガサツな印象のある織田一真が話すこのセリフはなかなか現実的でそのギャップが面白いですw

サプライズ【驚きの告白】

登場人物

主な登場人物

美奈子:出会いがなく恋人がいない美容師。美容室の常連客「板橋香澄」の紹介で香澄の弟である「小野学」と電話でのやり取りが始まる。

学(まなぶ):「板橋香澄」の弟。香澄の紹介で「美奈子」と電話でのやり取りを続ける。ボクシングの世界戦で日本人挑戦者が勝利したら美奈子に告白しようと思っている。

板橋香澄:美奈子の美容室に通う、学の姉。美奈子に学を紹介する。

斉藤さん:路上にて1回100円で客の現在の心境に合った楽曲を流してくれる謎の多い男性。

 

あらすじ

何か月も電話で話すだけの関係を続ける美奈子と学。

しかし、学からは時々1ヶ月以上連絡が来なくなる時期もあります。次第に美奈子は学がどんな男性なのか気になり始めます。

 

ある日、板橋香澄から「家でボクシングの試合を一緒に観ないか?」と誘われる美奈子。

この日ボクシングヘビー級の世界戦があり、日本人挑戦者が勝ったら学は美奈子に告白しようとしているらしいとの情報を香澄から聞かされます。

他力本願な告白の仕方に混乱しつつ、若干腹を立てるも、香澄の家で一緒に試合を観戦する美奈子でした。

 

試合結果は見事日本人挑戦者が勝利します。

試合終了後、本当に学から告白の電話がかかってくるのか半信半疑で電話を待つ美奈子に香澄から告げられた驚きの事実とは・・・

ドクメンタ【5年に1度の繋がり】

ドクメンタとは?

タイトルの「ドクメンタ」とはドイツで5年に1度開催されている現代美術の展覧会のことです。

ドクメンタdocumenta)とはドイツ連邦共和国中央部(かつての東西ドイツ国境付近)、ヘッセン州の小さな古都・カッセルで1955年以来、5年おきに行われている現代美術の大型グループ展である。

引用:Wikipedia

しかし、この物語はドイツの美術展の話ではなく、5年に1度の身近な行事「自動車運転免許」の更新の時だけ再会する男女のストーリーです。

 

登場人物

主な登場人物

藤間:「アイネクライネ」編の佐藤の先輩で、奥さんが娘を連れて家を出ていってしまい、自暴自棄になりデスクを蹴っとばし会社の大事なデータを飛ばしてしまった。仕事では几帳面で細かな作業が得意だが、家庭ではズボラでいい加減で忘れ物が多い。

免許更新の女性:毎回、運転免許の更新期限ギリギリになって更新する女性。面倒臭がり、なんでも先延ばしにしてしまう。結婚しており一児の母。

 

あらすじ

10年前の免許更新で視力検査の列に並んでいた藤間にメガネを借りるために女性が声をかけたことで始まった2人の5年に1度ある運転免許更新の日だけの不思議な交流を描いた物語です。

 

藤間と女性はお互いに面倒臭がりで先延ばしグセがあるため、運転免許の更新を期限最後の日曜日になってやっと更新会場に足を運びます。

そのため、5年前の免許更新でも更新期限最後の日曜日に更新会場で2人は再会します。

その時の会話で女性の大雑把でいい加減な性格に愛想を尽かし夫が家を出て行ってしまったことを藤間は女性から聞かされます。

 

そして、女性に会ってから3度目の免許更新であり、藤間の奥さんが家を出て行ってしまっている現在。

藤間が更新会場で会った女性に「お互い、懲りずに最後の日曜日に・・・」と言うと、女性は実は今回の免許更新は誕生日前にすでに済ませてあると話すのです。

聞くと女性は買い物のついでにわざわざ藤間に会いに立ち寄ったとのこと。

 

そして、女性は記帳に関するある話を藤間にします。

それは、夫から「記帳しろ」と言われ続けていたが面倒臭く後回しにしていた女性が記帳をすると、

そこには百円のみの入金が何回もされていて、振り込み元が『オレモワルカッタ』と印字されていました。

それを見た彼女は夫に自らのだらしなさを謝り、また一緒に暮らせることになったのです。

 

藤間に対して女性は、「『記帳しろ』と奥さんからしつこく言われたら気を付けた方がいい」とアドバイスをします。

 

物語のラストで藤間は通帳を握りしめ銀行のATMに並んでいます。

果たして通帳に奥さんからのメッセージは記入されているのか・・・

ルックスライク【「この子がどなたの娘かご存知ですか?」】

この話では「高校生」編「若い男女」編の2つのストーリーが交互に配置され、

ラストでそれぞれの関係にあっと驚く意外な繋がりが生まれるという仕掛けが施されています。

 

「高校生」編

登場人物

主な登場人物

久留米和人:男子高校生。社会の歯車として退屈な人生を歩んでいるように見える父親のようにはなりたくないと思っている。

織田美緒:和人の同級生。「アイネクライネ」で織田一真、由美の娘として登場している。美人な母親に似て、クラスの男子から一目置かれている。

深堀先生:30代後半だが、小柄で目鼻立ちがはっきりとした女性。和人と美緒が通う高校の英語教師。

 

あらすじ

ある日の放課後、和人は美緒から頼まれ、駐輪場で起こる「ある事件」の解決のために付き添いとして張り込みをすることになります。

そして、駐輪場で起きる犯行現場を目撃し、犯人に詰め寄る和人と美緒。

しかし、犯人は悪びれず興奮して危険な状態に、その時、犯人の後ろから近づいてくる深堀先生が取った行動は・・・

 

「若い男女」編

登場人物

主な登場人物

笹塚朱美:ファミレスでバイトする大学生。

邦彦:ファミレスでクレーマーから朱美を助ける。後に朱美の彼氏になる。

 

あらすじ

朱美がファミレスでバイト中、クレーマーに絡まれているところを邦彦がある機転を利かした方法で、その場を治めます。

その方法とはズバリ!「この子がどなたの娘かご存知ですか?」作戦

彼女の父親が暗に恐ろしい人物であると臭わせ、「後が恐いぞ!」と相手をビビらせる方法です。

邦彦がクレーマーから朱美を助けたことで2人は恋人同士の関係になります。

 

しかし、交際を始めて1年半が経った頃、2人の関係は次第にすれ違い始めます。

朱美はいつも邦彦が自分を驚かせたり、楽しませたりする立場で、自分がそれを受け止めるだけ、といった関係性に苦痛を感じるようになってしまいました。

お互いの些細な言動にも苛立つようになってしまい・・・

 

ラストで繋がる「高校生」編と「若い男女」編

一見すると何の繋がりもなさそうに見える2つの物語ですが、ラストにしっかりとそれぞれの関係性が明確になり、スッキリとした結末を迎えます。

 

メイクアップ【かつてのいじめっ子との再会】

登場人物

主な登場人物

窪田結衣:化粧品メーカー勤務。高校生時代は太っていて亜季にいじめられた経験がある。高校時代に気になっていた野球部の同級生と結婚している。

佳織:結衣の同期。思いついたことを熟考することなく口にする。結衣と正反対の性格であるが、結衣が安心して話ができる数少ない存在の一人。

小久保亜季:結衣の会社からの仕事を請け負うためのプレゼンに参加するメンバーの一人。かつては、結衣の高校時代のクラスの中心人物。結衣が同級生であるとは気付いていない。

辻井:結衣と亜希が参加した合コンの男性メンバー。亜希が狙っている男性。

 

あらすじ

化粧品会社に勤める結衣は、かつて高校生時代に結衣をイジメていたクラスメイトの亜希と思わぬ再会をします。

それは、結衣の会社の新商品のプロモーションに名乗りをあげた広告会社のメンバーの中に亜希が参加していたのです。

 

しかし、痩せて苗字も変わった結衣には気付かない亜希。

戸惑いもあり、結衣は亜希に気付きながらも、かつての同級生であることは告げず、初対面として接します。

結衣の会社が選ぶ側で、仕事を請け負いたい亜希の会社は選んでもらう側という立場。

プレゼンを有利に進めるべく、亜希は結衣に合コンを持ち掛けます。

はじめは結婚しているからと断る結衣ですが、亜希の粘り強い誘いに意を決して合コンに参加します。

それは知りたかったから、亜希が今もあの頃と変わっていないのか、それとも昔とは変わっていて、それによって自分の傷も癒えるのではないかと考えたからです。

 

その合コンで、亜季は気になっている男性(辻井)を自分のものにするべく、他の参加女性の誤情報を流して妨害工作をします。やっぱり以前とあまり変わっていなかった亜希。

 

数日後、結衣と佳織が食事をしながら合コンでの出来事を話している際に、たまたま亜希と辻井が現れ、そのまま4人で食事をする流れになります。

亜希が席を外した隙に辻井から亜希について「どんな女性か?」と質問されます。

絶好の復讐のチャンス!と誰もが考えるシーンですが、結衣の返答は・・・

ナハトムジーク【一人のボクサーが与える勇気】

「19年前」「9年前」そして「現在」という3つの時間軸で物語が進行していく構成になっています。

ウィンストン小野のボクシングの試合を中心にして、これまでそれぞれがバラバラに散らばっていた登場人物達のストーリーが少しずつ繋がっていき、一気に1つのストーリーが紡ぎだされる総まとめの話でもあります。

 

「ルックスライク」の久留米和人や織田美緒の同級生が登場したり、

藤間亜美子の母親が「メイクアップ」の窪田結衣の夫の出張先の社員で、彼の高校時代の小久保亜季とのエピソードがほんの少し話題に出てきたりします。

 

「あの人のその後」とか「実はあの人がこう思っていた」といった気になる部分が明かされている話でもあります。

小説執筆の意外なきっかけ

ミュージシャン斉藤和義に提供した小説

この小説の執筆のきっかけは少し特殊です。

ミュージシャンである斉藤和義さんが「恋愛をテーマにしたアルバムを作るので、『出会い』にあたる曲の歌詞を書いてくれないか」と伊坂幸太郎さんに依頼をしたのが始まりです。

この依頼に対して、斉藤さんの大ファンだった伊坂さんが一緒に仕事が出来るチャンスだからと、

「作詞はできないので小説を書くことならば」と快諾したことで本書の1つ目の短編である「アイネクライネ」が誕生したと本書のあとがきで伊坂さん自身が述べています。

 

その伊坂さん作詞の斉藤和義さんの楽曲『ベリーベリーストロング~アイネクライネ~』はコチラです。

 

タイトルの意味は?

「アイネクライネナハトムジーク」の意味

タイトルである「アイネクライネナハトムジーク」はモーツァルトの楽曲にある「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」から来ています。

とても有名なクラシック曲で誰もが一度は聴いたことがあるはずです。

アイネ・クライネ・ナハトムジーク』(Eine kleine Nachtmusik)はドイツ語です。

日本語では「小さな夜の曲」という意味になります。

この楽曲のタイトルはモーツァルト自身が自作の目録に書き付けたもので、

かつては日本語で「小夜曲」と直訳風に呼ばれていたようですが、今はあまり使われていない呼び方のようです。

実写映画化・漫画化もされています。

漫画化、映画化もされるほど人気の作品で、映画は2019年9月20日から全国の映画館で上映され、現在はDVD化もされています。

 

主演は過去に人気少女漫画の実写映画『君に届け』でも共演されている三浦春馬さんと多部未華子さん。

その他、矢本悠馬さん、森絵梨佳さん、恒松祐里さん、原田泰造さん、他。

監督は『愛がなんだ』が記憶に新しい今泉力哉監督などなど豪華キャスト・スタッフ陣となっています。

まとめ:人と人との繋がりが紡ぐ心温まるストーリー

いかがでしたか?

僕はこの小説を読み終わった後、退屈に感じられる普段の日常の中にある何気ない出会いが実は人と人との奇跡的なストーリーの積み重ねであるように感じられました。

 

現実世界においても自分が知らないだけで、実は友人や職場の同僚が意外な人と知り合いだったり、過去の出会いが今や未来の思わぬ出会いに繋がっている可能性があるなんてことを想像するだけでもワクワクしませんか?

  • 劇的な出会いがない
  • 毎日が退屈で刺激が欲しい
  • 心が温まる小説が読みたい

といった方に是非一度読んでほしい作品です!

 

 

ABOUT ME
だいちー
だいちー
田舎住みの読書好き人間。麻雀・映画・ボードゲーム・THE BLUE HEARTS/THE HIGH-LOWS/ザ・クロマニヨンズ好き。 21歳から27歳までをブラック企業で勤め「何かが間違っている」と感じてしまい、退職。フリーターをしながら国家資格キャリアコンサルタントを取り、現在はキャリア支援の仕事に就いています。 このブログでは趣味である読書から学んだことを中心に書いていきたいと思っています。 宜しくお願いします(^^)